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!!『自由論』J.S.ミル（山岡洋一訳）、光文社（古典新訳文庫）、2006年（07/09/13）

モラル系教員の勉強会で新訳を読んでみたので、紹介しておきます。
ソ連崩壊以来、「自由主義が正しかったことが証明された」なんて言う人もいますが、そもそも「自由主義」とはどういう考え方であるかを知っている人は少ない。ミルの『自由論』は、自由主義の考え方を簡潔明瞭に表現したとされる古典中の古典だ。この新訳はきわめて読みやすいので、おそろしいほど手軽に、自由主義の基本的な考え方を理解できるだろう。コミュニティだのガバナンスだのを語るのはそれからにしてもらいたい（なんて言っちゃだめか）。
『自由論』の議論は、個人の個性尊重と人類の進歩・発展の二面から、政治や社会に対する個人の自由が根拠づけられている。もちろん、無制限にではない。どう制限されるべきかが本書のテーマである。主張は次の2点である。

①他人に危害を与えないことに関しては個人は社会や国家から自由であるべきだ（危害原理）。

②他人や社会に危害を与えることに関しては、その面についてのみ個人は他人や社会・国家に対して責任を負うべきだ（責任原理？）。

この主張に関しては、現代では例えば次のような観点から批判が出されている。他人から独立した行為なんてあるのだろうか（共同体主義）。個々の自由が結局は自分たちの自由の首を絞めることにつながる可能性（共有地の悲劇、マルクス主義）。自由の担い手と想定される「判断力のある大人」の実現プロセスに存する権力（教育、主体形成）や実現不可能性（大衆の問題）の問題。だが最大の批判はミル自身が本書で悲しげに書いているものだろう。
「ある部分では自由をなぜか重視し、別の部分では自由をなぜか軽視するのをみると、人間には他人に害を与える権利が必要であり、誰にも苦痛を与えないで自分の楽しみを追求する権利はないかのようにすら思える。」(p.239)

なお本書は、ミルの亡くなった奥さんに捧げられている。その祈りのような、あるいは呪いのようなフレーバーこそがこの思想の本質であろう。