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『日本の自治・分権』松下圭一、岩波新書 (08/02/26)

[文献紹介]

 『日本の自治・分権』松下圭一、岩波新書 (08/02/26)


この本について、1月に紹介しようと思ったのだが、ついつい紹介を忘れているうちに、内容までおぼろになってきた。
この本は、従来の日本の中央集権型の統治を批判し、自治体が民主主義の基本単位であると考え、市民に支えられた自治のあり方を構想する。おおざっぱな評価を挙げておこう。中央集権型社会への批判と、地方自治体の課題については、筆者の長年の研究と活動に裏打ちされた、強い説得力がある。さすがに、わが国の地方自治の第一人者にふさわしい議論である。全体に議論は信頼でき、勉強になる。地方自治について学ぶなら、まずは必読の書としてお勧めである。

ただ、現代的観点からみると、松下の議論は時代からすでに2,3歩遅れてしまっている点がある。その点を一言で指摘するなら、「自治」は地方自治体だけによるものではないぞ! ということだ。確かに、地方自治体の力は大きく、特に政令市となった自治体は現在もじわじわと資金や人材を手にいれ、国家から主導権を取り戻しつつある。日本はまだ松下の議論を追いかけている段階かもしれない。

だが、市民やNPO、企業、自然環境や伝統・文化など、地方を構成し、ローカルガバナンスを形成する要素は、本来は松下の考慮をはるかに越えている。大学や研究会もアクターとして堂々と参加したい。松下も本書で市民参加を説くが、それはあくまで行政に協力するという意味での参加に止まっている。松下の頭の中では、あくまで「自治体」「行政」「政策」が中心なのである。すでに、もっと多様な自治が展開されつつある現代、自治体は確かに自治の重要な一角ではあるが、そこからしか自治をみることができていないのは、松下の、あるいは本書の出版された1996年の限界であると言うべきだろう。

民主主義は、すでに次の段階に進んでいる。